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ビッグバンとその先にある未来

「磯川くん、どうだ。最近は」

 

「はい、最近やっと軌道に乗ってきたかと思ってたんですけどねえ。これは行けるかな、と思った途端に売上が落ち込んだりして…」

 

「そうか。まあ、初めの頃はみんな、そんなもんだ」

 

「そうなんですねえ」

 

「目先の結果に一喜一憂するのもいいけどな。お前も経営者の端くれなら、長い目で見ないといかんぞ」

 

「長い目、ですか」

 

「そうだ。長い目だ。君はなぜ、起業したんだ」

 

「そうですね、田舎には遊びの種類が少ないなと思って。それで田舎の若者にもっと色々な遊びを提案したかったんですよね」

 

「そうか、田舎の若者にな。それじゃあ、どうだ。東京には山ほど遊びがあるだろう。遊びが山ほどある都会の若者は充足してるか」

 

「さあ、どうなんでしょう。充足しているようにも見えますけど、よく見てみるとここにもない何かに飢えているような気もします」

 

「ここにはない何か、ってなんだ」

 

「うーん、なんでしょう。単純に自然と言うわけでもないし…」

 

「もしかすると、お前のこれからの仕事はそれを見つけて具現化することなのかもしれないな」

 

「具現化、ですか」

 

「そうだ、具現化だ。起業家はそれがサービスだろうが商品だろうが、顧客の求めるものを具現化するのが仕事だ」

 

「はい」

 

「つまりそれはな、未来をつくるということなんだ。起業家の仕事は未来をつくることなんだ」

 

「なるほど」

 

「その未来をつくるときに道しるべになるのが初心だよ。自分がどんな思いで起業するに至ったか。その初心が大事だ。初心はいわば、宇宙のビッグバンみたいなもんだからな」

 

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「ビッグバン…。すべての始まりということでしょうか」

 

「そうだ、始まりだ。だからそのビッグバンからはじめて、さらにその先を長い目でみつめるんだ。ビッグバンの先に、宇宙の先に、地球の先に、我々の暮らしの先にどんな未来があるのか。あるべきなのか」

 

「まるで思想家ですね」

 

「そうだよ、起業家は起業家であると同時に思想家である必要がある。人々の暮らしを考えるんだからな」

 

「はい」

 

「だからな、とにかく考えろ。一歩でも多く、自分の思考を前に進めるんだ。考えることをやめちゃいかん」

 

「はい」

 

「しばらく考えるとな、その先にあるべき未来が見えてくる。じわーっとな、見えてくるんだ。未来が。そして、その未来を掴んで離すな」

 

「はい」

 

「お前、大丈夫か。さっきからハイッ!しか言わないじゃないか。さてはだいぶ参ってるな。ガッハッハッハッハ…!!」

 

僕らはいつも打ち合わせをするいつもの喫茶店で、いつものコーヒーを飲んでいた。

 

カップに残った冷めたコーヒーを飲み干して、僕らは二杯目のコーヒーを注文した。

 

「目の前の結果が気になる気持ちはわかる。しかしな、自分の信念を忘れるな。底にある根を忘れるな。そして、その先に実るであろう未来を長い目でみつめろ。それが経営者である君にできる仕事なんだ」

 

クーラーの効いた店内。

 

コツコツとヒールの音を立ててやってきたウエイトレスが、僕らの前に二杯目のコーヒーを置いた。

 

白いカップに注がれたコーヒーからは湯気が立っていた。