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ゴキブリ社長のブランド論

 

「ブランドとはとんがりである」

 

ゴキブリ社長がホット・ウイスキー・トディを飲み干したあとで、こう言った。

 

ブランドとはとんがりである。

 

「いいか、磯川くん。ブランドとはとんがりなのだ」

 

「とんがり・・・ですか」

 

僕らは銀座の並木通りにある、とあるバーで飲んでいた。

 

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道ゆく人たちがコートを羽織だす季節だ。

 

東京にも秋が訪れようとしている。

 

「ブランドはとんがっていなければならない。もし君の築こうとしているブランドが、仮に丸いのであるとすればそれはブランドではない。ただの作業だ。それもまた尊い営みではある。しかし、君はただの作業を延々と続けたいのかね?」

 

「ただの、作業・・・」

 

僕はあまりにも突然の言葉に、返す言葉を失っていた。

 

「ブランドを築く行為は、ただの作業ではない。それは歴史という大きな時のうねりに爪痕を残す作業だ。つまり君にしか残せない強いメッセージだ。お前の考える後世に伝えるべき伝言は一体なんだ?力強く、価値のある、しかしシンプルな言葉。それは決して万人に対して耳障りのいい言葉であるわけではない。人によっては傷つく人もあるだろうし、なかには怒り出す人だっているだろう。しかし、それでいいのだ。いや。むしろそれが、いいのだ。逆説的になるが、ブランドとはむしろ人を傷つけられるものでなければいけない」

 

ゴキブリ社長がいつものようにまくし立てる。

 

「いいか、磯川くん。ブランドとはとんがりだ。それを忘れるな。とんがっていなければいけないのだ。ときには人を傷つけ、ときには人を救う。それがブランドだ」

 

そう言い切って、ゴキブリ社長はバーテンダーに会計をするよう伝えた。

 

僕はグラスに残っていたウイスキーを慌てて飲み干し、帰る支度にとりかかった。

 

「ブルイックラディ」

 

席を立とうと腰をあげた途端、ゴキブリ社長が小さくつぶやいた。

 

「えっ?」

 

「お前が飲んでいたウイスキーだ。ブルイックラディはとんがっている。そのとんがりを忘れるな」

 

その言葉を聞いたマスターが僕の目の前に置かれたウイスキーのボトルを、その視線でで指し示す。

 

「・・・」

 

「さぁ、帰るぞ」

 

外にでると冷たい風が頰を刺した。

 

僕らはタクシーを捕まえて、そのシートに深く沈み込んだ。