続・日刊いそかわ

とあるうつ病患者の日記

別れた相手のことは悪く言わない

「別れた相手のことは悪く言ってはいけないよ」そう教えてくれたのは東京で会社を経営する一回りほど年上の先輩だ。僕らはその先輩が教えてくれた渋谷のとあるビルの地下にあるバーで飲んでいた。暗がりのなかで人々はビールやらウイスキーを嗜み、談笑していた。ただ黙って煙草を吸う人もいた。お互いの近況について話をするなかで、僕がその人につい元パートナーについての愚痴をこぼしそうになったときのことだ。僕はその場で同じ言葉をそのまま繰り返した。「別れた相手のことは悪く言ってはいけない」どんな聖人君子にみえる人だって、当たり前だけれど完璧であることはありえない。そして真剣に付き合っていれば、ぶつかることもあるだろう。だから非難しようと思えば、いくらでもできる。だけど、別れた相手のことをここで悪く言ってしまえば、それは君の価値を下げてしまうことになる。その話を聞かされる相手だって、きっと楽しくない。なにより一度でも愛した相手のこと悪くいうのは、自分が一番傷つくはずだ。今になって考えてみると、その先輩はそんなことを教えたかったのだと思う。だからそれ以降、この言葉を胸に刻んでいる。「別れた相手のことは悪く言わない」僕らは空になったグラスに安いバーボンをなみなみと注ぎ、黙って乾杯をした。カウンターのなかではマスターがただひたすらにレコードをかけていて、その一曲一曲がいちいち僕の胸に刺さった。

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