昼過ぎに店につくと玄関の前に黄色い蝶がいた。この小路で蝶を見かけたのは初めてだったので僕は嬉しくなって、その姿を動画に収めることにした。その蝶も蝶で、この場所が心地よいのか小路から逃げもせず、カメラをまわすぼくの周りをひらひらと舞っていた。今日は愛知から美濃加茂茶舗の伊藤さんがやってくる。火鉢に焼いた炭を入れ、部屋を暖める。ここで行う好きな儀式のひとつだ。炭が真っ赤になったところで、五徳のうえに鉄瓶をおく。しばらくすると鉄瓶がシューッと音を鳴らしながら湯気を立てる。この湯気もまたいい。いつか八潮の茶室でみた釜から立ち上がる湯気に似ている。伊藤さんは「いまのこの場所にはこれがいいと思って」と前置きのあとで、ひとつの瀟洒な茶筒をカバンの中から取り出した。「 "さみどり" と言って普通はてん茶や玉露にする品種なんですが、それの煎茶を…しかも荒茶で…」力づよい、しかし滑らかな、美しい黄色をしたおいしい煎茶だった。僕もたまたまレモンのあられ、レモンのシーシャを用意していたので、二人縁側に並んで黄色いそれらを食べながらお互いの近況を話し合った。「日本茶の日」に日本茶の専門家と縁側で飲むお茶は格別だ。そういえば、さっき会った蝶も同じような色をしていたっけ。