ケトルから湯気が立ち上る。細く開けた窓から、生ぬるい風が吹いてくる。まるで北国の雪解けの季節のような風が。
「日記を書くときは “誰もみていない” と思って書くのがコツだよ」
とある知り合いの編集者がいつかぼくにそう言った。日記を書くときは “誰もみていない” と思って書くのがコツだよ。
そう教わってからというもの、日記をすらすらと書けるようになった。そもそも、誰もみてやしないのだ。好き勝手に書いてみればいい。自分の日記くらい、じぶんの思うままに。
しかし、それでも今日はなにも書けなさそうだ。