ふと思う。
何のために店をつくったのか。
思い返してみると、ぼくの店づくりは家づくりに似ている。
店づくりは「みんなの家」づくりなのである。
いわしくらぶはこの街に暮らす人々の
多少なりとも近しい感性を持った人々の
なんとなく同じような思想哲学を抱く人々の
そのための家づくり。
家といってもシャワーや寝室まで備えているわけではない。
リビングルーム程度のもの。
だけど、それでいい。
行きたいと思えばいつでも行けて、自分以外の誰かがそこにいて、ほんのひととき孤独を癒せるだけでいい。
気の利いた飲み物や小腹を満たせるお菓子なんかあると最高だ。
一日の、一週間の、一ヶ月の生活のなかで溜まった心の「おり」のようなものを、ほんのすこしでも預けられる場所が、街には必要なんだ。
案外それだけで、人は「明日も生きよう」と思えたりするから。
すくなくともぼくはそうだったから。
だからぼくは、ぼく以外の「ぼく」のために店をつくるんだ。